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076:住
佳きひとの住みたまへるかカーテンに風さわりゆく新しき家

077:屑
担がれてかんかんのうを踊りたり死人のらくだは屑屋の背に(古典落語『らくだ』)

078:アンコール
暗黙のルールのごとくアンコール乞ふ手拍子のたかまりてきつ

079:恥
恥おほきわが一生(ひとよ)なれ風のむた秋海棠はほろほろ散りぬ

080:午後
コンタクト乾ゐてたまらぬ冬の午後熊手担げるひと向かひ来る

081:早
題詠百首よみつつふとも早世の笹井宏之しのばるるかな

082:源
水源を指でたどりつ島原の湧水群を地図に見てをり

083:憂鬱
見るからに憂鬱さうな顔をしたをんな映れり地下鉄の窓

084:河
かうもりが飛ぶゆふぐれの河に来て小さく泣けり嘘つき少女

085:クリスマス
クリスマス色に輝よふタワーの下特徴のないひとりとなりぬ

086:符
生き別れはた死に別れこのむねに見えぬ符号が刻まれてゐる

087:気分
つれづれに敗者の気分湧ききたる夜はひらたくなつて寝るべし

088:編
三つ編みのアン・シャリーを友のごと思ひてをりき十ニのわれは

089:テスト
安易なる結論に至るをたのしみて心理テストのページをすすむ

090:長
お御籤に「気長に待て」と諭されし今年もわづかにひと月となる

091:冬
冬羽に変われる一羽飛び来たりきつとみなみへ渡るノビタキ

092:夕焼け
夕焼けの六郷土手に犬連れた人つぎつぎに現れて消ゆ

093:鼻
目鼻立ち整ひしをとこ懐に黒皮かぼちゃまるまる抱けり

094:彼方
彼方より来てかなたへ去り行ける雲は意志あるもののごとしも

095:卓
円卓にあいなくをりぬお一人様4万円のディナーパーティ

096:マイナス
今日もまたマイナスパワー撒き散らす権化のごとき同僚(とも)をおそるる

097:断
禁断の木の実なるかな人寄れぬなだりに枇杷の照りて実れる

098:電気
まくらべの電気スタンドかたまけて古い手紙を読みかへしをり

099:戻
暴風に弱いがたたる飛行機の払ひ戻しの列ののびゆく

100:好
「好か好か」が口癖なりし諫早のおじに電話をけふはかけなむ
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2009.11.29 Comment:0 | TrackBack:0
ふだんは新かな遣い派ですが、題詠は旧かなで詠みました。間違った使い方もしているかと思います。

051:言い訳
一冊を言い訳つくすものがたりぱたんと閉ぢて風起こしたり

052:縄
縄文式土器のかけらを売る店のきのふはありてけふ見えぬなり

053:妊娠
留守電にはづみしこゑは妊娠を告げて切れたり 天のこゑかも

054:首
肝試しのコースのひとつ首なしの地蔵にらふそく燃えてをり

055:式
回廊に祈りのこゑのくれぐれと腹式呼吸の僧の香色

056:アドレス
アドレスは空き地あるゐは路の上ミミと呼ばれる野良猫がゐる

057:縁
縁踏まぬ礼儀作法を教へるにぎこちなきわが歩みとなれり

058:魔法
この先に魔法使いが住むやうな古家がありてアロエ花咲く

059:済
「消毒済み」紙帯(おび)をはづせばいみじくも生(あ)れいづるなむ菌のいろいろ

060:引退
さてといふさまに引退したき世の冬にはふゆの花を愛でつつ

061:ピンク
ピンクより薄紅色といひたきを秋桜ただ風にゆれをり

062:坂
坂のぼり坂くだりしてけふも暮れひきつれしわが影をととのふ

063:ゆらり
ゆらりんと呼ばれし友も胴太き中年となりマイク離さぬ

064:宮
迷宮に遊ぶここちにフィッシャー展出てあぢきなしビルのあはひは

065:選挙
選挙戦終盤なれば駅頭の演説の声かすれてをりぬ

066:角
きっちりと角と角あはすことのみを強く守れり鶴を折るとき

067:フルート
音楽は金持ちの趣味と言ひながら母はフルートの音を好みをり

068:秋刀魚
七輪はとほきむかしよ切りわけし秋刀魚をグリルに並べるゆふべ

069:隅
大川の身投げといえば吾妻橋隅田川下りの船にくぐれる

070:CD
CDの若かりし声『芝浜』の夫婦喧嘩の緩急ぞ善き

071:痩
役作りに痩せる太るをくりかへすわけやあるまゐ夜夜の月見る

072:瀬戸
瀬戸内の島並みはるか夕焼けの写真をほめてコメント終へる

073:マスク
カラフルな台湾マスク群れとなり赤信号に溜まりてをりぬ

074:肩
軍服の肩章にぶく光らせてナポレオン一世の腹のふとぶと

075:おまけ
ついてない一日暮れて帰るさのおまけのやうに犬に吼えらる
2009.11.29 Comment:0 | TrackBack:0
題詠Blog、今年は「旧かな」でチャレンジしています。間違えていたら、ご指導ください。


026:コンビニ
レジ前にありてちひさしコンビニのポストにけふは歌稿を投ず

027:既
かうかうと笑ふ声して既製品崇拝論者の一団がゆく

028:透明
透明はうつくしきかなレントゲン写真にわれの骨を数へる

029:くしゃくしゃ
ちさきもの生れし気配にくしやくしやに丸めし紙のゆるびてをりぬ

030:牛
撫で牛の夢に来て立ちあがりたり天神さんにきのふ詣でて

031:てっぺん
てつぺんにポンポンついた帽子ふたつ木枯らしの窓をすぎて行きたり

032:世界
新世界の真中にたちてけつたいな神祀りをり通天閣は

033:冠
神前に奉りゐる神官はくろき冠(かむり)を傾けにけり

034:序
序文から惑わされつつ読みすすむ小説の町にけふは雪ふる

035:ロンドン
しあはせを売つてる店を探しをりロンドン・アイの窓に寄りゐて

036:意図
意図的にブルーを選んでゐる朝のクローゼットに仁王立ちして

037:藤
四十年前フランス人として死せり藤田嗣治八十二歳

038:→
→のとおりに展示みてゆけば青焼け空をひとは飛びたり

039:広
広島ゆ乗り来しをとこ牡蠣めしとビール二本でくたりとなりぬ

040:すみれ
聞くならくパーマすみれのおばさんも呆けてしまへりふるさとは秋

041:越
そのかみの大井川越ゑしのぶれど新幹線に須臾に過ぐなり

042:クリック
いざなはれクリックすれば日輪にいま月輪の重なるところ

043:係
思ひのほか覚ゑてをりぬ振りつけて『他人の関係』歌ひきりたり

044:わさび
涙目をわさびソースのせゐと言ひ今宵の吾娘は言葉少なし

045:幕
暗幕のしきりにゆれて隙間より幼なつぎつぎ小走りに出づ

046:常識
「常識ってめんどくせえな」閉ぢかけた絵本のページにおおかみが言ふ

047:警
コマ(劇場)裏の花屋閉店す警笛に押されてあるく花道通り

048:逢
たまさかの出逢ひのはずが五十両くれてしまへり左官の長兵衛

                       (落語『文七元結』)

049:ソムリエ
「ソムリエは、良い・悪い・ふつうがありまして、お好みのタイプをご用意します」

050:災
いにしへの災ひ星とや満月にぽつちり赤い星がよりそふ
2009.11.02 Comment:12 | TrackBack:0
題詠Blog、今年は「旧かな」でチャレンジしています。間違えていたら、ご指導ください。


001:笑
缶ビール飲みつつ帰るこのゆふべ片笑み見せて犬がふりむく

002:一日
やうやくに一日果つる心地してボトルの水をひといきに干す

003:助
身を助く芸あらなくに亀太郎ねむれぬ夜にオンと鳴くなり

004:ひだまり
「ひだまりのやうな人」とふありふれた形容ありて弔辞つづくも

005:調
七五調はた五七調 韻律にまみれたるまま歌会ゆ戻る

006:水玉
水玉のサーキュラースカート若き日の母はオードリーのごときポーズに

007:ランチ
「便所めし」とふランチもありてはつなつの大学前にあまた降りゆく

008:飾
「ドーイドーイ」の掛け声に曳かれゆく船のみおしに花の飾られてあり

009:ふわふわ
ふわふわの酔いごこちせり暑気払いのビアガーデンに二杯を飲めば

010:街
わが街の150年祝ふとて巨大蜘蛛は海ゆ来たれり     (*開国博Y150)

011:嫉妬
おさなにも嫉妬心ありておねえちやんのケーキのはうが大きいと言ふ

012:達
募金額は二億五千万に達せしとメイン司会は繰り返したり

013:カタカナ
カタカナに書けばたちまち変質すことばのいくつありてこの夜

014:煮
「まだ煮えない」ふいに声せり大楠のしたに車の窓ひらくとき

015:型
大型のクレーン静かにならびをりオレンジの灯のともる埠頭に

016:Uターン
ゴミ箱にいまし落ちゆく新聞のUターンラッシュの文字のくろぐろ

017:解
解凍のさんまといへど眼のすめる三尾パックを迷はず買ひぬ

018:格差
おみやげに格差みえつつ免税のレジにつぎつぎ人はたちをり

019:ノート
百均に買ひしノートに書きちらすつぶやきに似る三十一文字を

020:貧
「酒柱が立っています」のサゲついて貧乏長屋の花見の一席

               (落語『長屋の花見』)

021:くちばし
フエルトのくちばし黄いろいぬひぐるみ前のシートに見えつかくれつ

022:職
職ひきて四半世紀をたゆたへる父の鞄が戸袋にある

023:シャツ
綿シャツの裾はためかせ自転車の少年がゆく夕陽を負ひて

024:天ぷら
天ぷらを詠はむとして天ぷらをちぎつてをりぬ眠りのなかで

025:氷
ロープウェー頂上駅の売店の氷旗いろ褪せてさがれり
2009.11.02 Comment:0 | TrackBack:0
夏実麦太朗さんの「麦太朗の題詠短歌」にて、題詠blog2008に投稿した歌から7首選んでいただきました。


佐山みはるさんの歌


016:%
プルトップ引く瞬間のたかまりぞ5%にくちびるを寄す

034:岡
胃を病みつ桜百首を詠みけらし岡本かの子舌苦からん

044:鈴
風鈴をつるせばそこに風がきて歌うたうらん はやもつるさな

051:熊
ゆくりなくここぞ熊野と思いけり高度一万メートルを来て

056:悩
ほおづえをつけば悩みがあるようで雨を見ている海辺の店に

083:名古屋
右左どちらでも良い名古屋ではエスカレーターの片側空ける

089:減
目減りする愛もあるらんティーカップにアールグレイを注ぎ足している
2008.11.13 Comment:2 | TrackBack:0
「しなやかに、したたかに、無責任に・・・西中眞二郎雑記帳」にて、題詠blog2008「063:スリッパ」「075:量」「080:Lサイズ」「084:球」「085:うがい」「086:恵」「087:天使」「090:メダル」「092:生い立ち」「094:沈黙」「100:おやすみ」を選歌していただきました。



選歌集・その76(最終)

063:スリッパ
左右なきスリッパに見るさびしさの私に似合う一足を買う

075:量
目分量に醤油や味醂を振りいれてレシピなどない母の手料理

080:Lサイズ
Lサイズのアイスコーヒーを持て余す どこにも行けぬ秋の日暮れは

084:球
肉球のうすももいろを舐め終えてひだまりに猫はまた丸くなる

085:うがい
隣家よりうがいする音聞こえくるひとり息子の帰りたるらし

086:恵
てにをはに苦しむ午後を天恵のごとくそばえの降りはじめたり

087:天使
懐妊のマリアに額づく大天使ガブリエルとは細き顎持つ

090:メダル
金銀のメダルを首にかけられて園児は並ぶゴールの脇に

092:生い立ち
なさぬ仲の祖母を看取らず生い立ちも語らず母は老いづきにけり

094:沈黙
沈黙を介在させている夜はグラスの泡が冗舌になる

100:おやすみ
朝焼けの空に木星の影さしておやすみなさい星の子たちよ
2008.11.02 Comment:0 | TrackBack:0
「しなやかに、したたかに、無責任に・・・西中眞二郎雑記帳」にて、題詠blog2008「027:消毒」「029:杖」「030:湯気」「035:過去」「047:ひまわり」「049:礼」「056:悩」「057:パジャマ」「059:ごはん」「066:ひとりごと」「068:踊」「071:メール」「076:ジャンプ」「081:嵐」を選歌していただきました。


選歌集・その67

035:過去
過去(すぎゆき)はあめいろにして羞(やさ)しかりうつつに会えざるひとの増えゆく

049:礼
天降(あも)りくるひかり薔薇窓の色をして礼拝堂の床に遊べり


選歌集・その68

047:ひまわり
ひまわりの黄色は吾に足らぬ色十指を夏の陽にひらけども

066:ひとりごと
語尾強くひとりごと言うひとがいてそののち深きしじまはきたる


選歌集・その69

027:消毒
時雨ふるまひるさびしい路地裏に消毒液のしるく匂える

068:踊
盆踊りの歌に合わせて両の手を母動かせり車椅子にて


選歌集・その70

029:杖
ガレージに置かれしままの父の杖白く乾ける泥も残りて

030:湯気
湯気あがる排気口よけ歩み去る黒のやせ犬ふり返りつつ


選歌集・その71   

056:悩
ほおづえをつけば悩みがあるようで雨を見ている海辺の店に

059:ごはん
餌と言わずごはんと言うが最近のペット事情なり犬が靴はく

071:メール
携帯に訃報は届き夕つ方メール通りに行く葬祭場


選歌集・その73

057:パジャマ
母の日に贈りしパジャマ着ておりぬ去年より小さくなって母は

076:ジャンプ
逆さ吊りのカードの男を思わせてバンジージャンプにたまゆらを死す

081:嵐
嵐雪の句集ひらけば一輪の梅の白きのほのあたたかし
2008.11.01 Comment:2 | TrackBack:0
「しなやかに、したたかに、無責任に・・・西中眞二郎雑記帳」にて、題詠blog2008「015:アジア」「022:低」「024:岸」を選歌していただきました。


選歌集・その63


015:アジア
楼蘭に有翼天使の絵はありきアジアに紅き砂嵐起つ

024:岸
ほむらなす彼岸花野に見て過ぎて花ひと盛りこころにうつす


選歌集・その64


022:低
天気図に西高東低著(しる)ければ柿の実色のスカーフを選(よ)る
2008.10.19 Comment:0 | TrackBack:0
「しなやかに、したたかに、無責任に・・・西中眞二郎雑記帳」にて、題詠blog2008「002:次」「003:理由」「005:放」「032:ルージュ」を選歌していただきました。


選歌集・その54

003:理由
しくじりの理由は棄てられ様々なかたちの雲がただ空にある


選歌集・その56

002:次
咲き次ぎて心清(すが)しも朝顔のその名を「天上の青(ヘブンリー・ブルー)」と聞けば

005:放
湯に放つパスタの9分 イタリアの青の洞窟はいまだ見ざりき


選歌集・その58

032:ルージュ
ルージュまでぬり終えて女(ひと)は微笑みぬ鏡のなかの女(ひと)に向かいて

2008.10.03 Comment:0 | TrackBack:0
ずいぶん前に書いた短いお話です。時代考察など適当なので、変なところもあると思います。

「トシちゃんの根づけ」
~1945年3月10日東京大空襲~


午前零時、加代はあくびをかみころした。

寝返りさえはばかられる8人部屋を、ぬけだしてきたのは小一時間ほど前。
工場の裏に置かれた形ばかりの粗末な縁台に座って、ずっと星空を見上げていた。
昼間の労働で疲れきっているのに、今夜はなぜかなかなか寝付けないでいる。

東北の小さな村から、挺身隊として東京に出てきて半年。
あと二十日もしたら、動員の期間が終わって田舎へ帰れる。
もうすぐ早池峰山の雪解けが始まり、ふきのとうが春を連れて来るだろう。
今朝、妹のさよ子から来た手紙では、母も弟たちも皆元気そうだ。
たどたどしく綴られた手紙の最後に、祖母が腰痛を患っていることが書き添えられていた。
父を赤紙で取られてからは、畑は母と加代のふたりでやってきた。
しかし加代が学徒動員で里を出たあと、祖母も妹たちも野良に出なければならなくなったのである。
家の者の腹を満たすのがやっとの小さな畑だが、60歳を越した祖母に野良仕事は重労働だ。
「ばっちゃんの土産に、上野で膏薬を買ってあげよう。」

そんな算段を巡らして一人にやにやしていると、星が動くような気配がした。
静けさを破って、空襲警報が煽るように唸りはじめた。
「ふん。鬼畜米兵め。どうせまた、いつもの威しよ。」
地下壕に駆け入りながら、加代は心のなかではそう思っていた。
「日本の勝利は近い、戦争はもうすぐ終わる」と工場長達が話していたのを、昨日聞いたばかりだ。

爆音がぐんぐん近づいてくる。頭の上を熊ん蜂が飛んでいるかのようだ。
壕の入り口から手を伸ばせば、届くのではないかと思った。
「いつもと違うよ、おかしいよ。」
寝込みを襲われ慌てて飛び入ってきた娘達が、口々に言い出した。
「こわい!」耐え切れず泣き出したのは、村から一緒に来ていた幼なじみのトシちゃんだった。
いったい上はどうなっているのだろう。
耳を裂くような爆音とともに、壕がぐらぐらと揺れた。



----火に囲まれたのはあっという間だった。

強風に煽られ勢いを増した火の手は、容赦なく町を責め立る。
逃げ惑う人達は、まるで申し合わせたように一つの空き地に集まった。
いや正確には、混乱から人のたくさんいるほうに集まる群集心理だったのだ。
そこが前に進むも後ろに下がることもできない、逃げ場のない場所だということを 誰一人知らなかった。

空気がとどまって動かない。じりじりと迫り来る炎。いったい何処へ逃げたらいいんだ。
熱風で息をすることすらできない。肺の中まで焼けつくようだ。

さながら火焔地獄の様相で、多くの人が悶えながら息絶えていった。---



昼過ぎて、加代は隅田川の川べりを一人歩いていた。
言問橋にはたくさんの人が倒れていたが、生きているのか死んでいるのかわからない。
ただの黒く煤けた塊のように見えてしまうのだ。
自分が生きているのが不思議だった。顔にひどい火傷をしているけれど、幸い生きている。
「トシちゃん、無事だろうか。」
家財を載せて逃げ惑う大八車に押し出されて、いつのまにか二人はぐれてしまった。

工場も寮もすっかり焼け落ちて、誰もいなかった。なにもかも全て燃えてしまった。
「トシちゃんを見つけたら、一緒に村に帰ろう。」
トシちゃんはどこへ逃げたのだろうか。私を探し回っているのだろうか。
もうそろそろ再会してもいいはずなのに。胸の中で、不安だけがふくらみはじめる。

山のように死体が折り重なった場所にも行ってみたけれど、トシちゃんの姿は なかった。
まだ火がくすぶっているそこは、人が焼けるいやな臭いがたち込めていた。
死体の顔に見覚えがあった。同じ工場で働いていたひとつ年下の子だ。
加代はこらえきれずに嘔吐をくり返した。
そしてそれが、死んだ人たちに申し訳の立たない恥ずかしいことに思えて、涙がとまらなかった。

誰かに呼ばれたような気がして振り返ると、草むらの中できらりと何かが光った。
それは小さな根づけだった。
東京に出てくる前の日に、加代とトシちゃんにお守り代わりにと祖母がお揃いで作ってくれた
蜆の貝殻を端切れで包んだ根づけだった。
「トシちゃん!」
土手下に転がっているトシちゃんに気づいたのは、そのすぐあとだった。


毎年3月10日になると、おばあちゃんは左頬の火傷の跡が疼くと言う。
そしてあの日拾ったトシちゃんの根づけは、今でも仏壇に二つ揃えて供えられている。


                           終わり



過去の作品を手直ししました。なお作品はフィクションです。1998.3.10
2008.03.11 Comment:2 | TrackBack:0
駆け落ちでなければ帰る外なくてくたびれている「のぞみ」の窓に(有馬美佐子)



妙に皆さんにウケてしまいました(苦笑)
異性との旅行から帰るところか、作者が男性は女性か(作者名は最後に発表)。
二人で帰るところか、ひとりだけ帰るところか。
二人で帰るなら「のぞみの窓のふたり」ともしようが、きっと一人だけで帰ったに違いない。
“駆け落ち”だったら良かったのになぁ、と作者は思って詠んだ。
いやいや、日常に戻る妻のぼやきだろう。
「のぞみ」は希望の意味をかけてある。
いろいろ想像させられる。
「くたびれている」がいい。
おかしみがある歌と。

楽しくなる歌評をたくさんいただき、ありがたかったです。
2007.05.14 Comment:0 | TrackBack:0
知り合いに勧められて投句してあった句が、俳句結社誌「風花」1月号に掲載されました。


君を待ち紅をさしたる酔芙蓉

名を呼べど叶はぬことか秋簾

戯れの恋とはいはず月隠る



酔芙蓉の句は、12月号にも掲載されていました。
私がミスして二重投稿したのかも知れません。
2007.02.18 Comment:0 | TrackBack:0
知り合いに勧められて投句してあった句が、俳句結社誌「風花」12月号に掲載されました。



夏休みスタンプラリーが走り過ぐ


君を待ち紅をさしたる酔芙蓉


義父逝きて煙立ちゆく鰯雲
2006.12.29 Comment:0 | TrackBack:0
二週間ほどまえ、会社の友人でおもに現代詩ときどき俳句をやっている人に「黄菜子ちゃんに上の五七五の部分のとこ作ってもらいたいなぁと思って・・・」と、差し出された下二句。
「はーい。ご注文お受けしまーす」と軽く受け取ったものの、それは「なじめぬままのヘクトパスカル」という七七でした。
うーむ。これは結構、手がかかりそう。。。。結句が「ヘクトパスカル」という体言止め(名詞)、しかもクセのある言葉。
まるで『題詠』(苦笑)
「なじめぬ」と言っているわけだから、上三句は逆になにげないこと、すっかり生活の一部になったようなことを詠みこめばいいのかな?
たとえば、新婦がワイシャツのアイロンがけに慣れたとか、新入社員が仕事になれたとか。
などと考えあぐねて、やっとできた歌は、最初に考えていたこととはまるで違ってしまいましたが。



初稿
指先から濡れはじめゆく神無月なじめぬままのヘクトパスカル


二稿
指先から湿りはじめる十月のなじめぬままのヘクトパスカル

          
最終稿
中指から湿りはじめる十月になじめぬままのヘクトパスカル




気をつけたのは「区切れ」。はじめはで三句切れにしていたのですが、ブツ切れの感じが気に入らなくて、結句までつながるようにしました。
具体性があったほうがよいと思い、初句は字余りですが「中指から」、三句を「十月に」としました。
「十月」にこだわりがあるわけではないのですが、秋らしい雰囲気を出したかったので。秋台風や長雨、早ければ霜も降る季節。乾燥する冬の手前の少し湿り気のあるような空気を。
天気図と女心を関連させて(つもり)
どうでしょうか?よろしければ、感想・批評をお願いします。
2006.12.26 Comment:2 | TrackBack:0
知り合いに勧められて数ヶ月前に投句した句が、俳句結社誌「風花」に掲載されました。




行く道の難きは承知女郎蜘蛛


いだかれて浅き夢みし梅雨曇り


移り気を透かして見ゐるソーダ水
2006.11.29 Comment:2 | TrackBack:0
身につかぬことは詠わじそうはいえ熱き想いのあふるるままに
2006.11.20 Comment:0 | TrackBack:0
昼と夜のあわいに紅き薔薇よ薔薇あえて語らぬことぞ多かる
2006.11.18 Comment:2 | TrackBack:0
蒼空に白くかそけき残月のこころに住めるひとのおもかげ
2006.11.14 Comment:2 | TrackBack:0
とりたてて詠うもの無き日を送るどこを切っても同じ絵みたいな







通勤電車から富士山が見える季節になった。
冬が嫌いじゃないのは、きっと、空が冷え冷えと澄むから・・・。
遠くの山の輪郭がはっきり見え、夜空の星もいっそう輝きを増すようで・・・。
2006.11.10 Comment:4 | TrackBack:0
いちめんの銀とはならでそよぎたるすすき野原を雨洗いゆく




通勤電車から見える風景を詠んでみました。
2006.11.07 Comment:2 | TrackBack:0
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